今日はパリ市内観光の２日目。心配だったのは日曜日だったこと。ヨーロッパでは日曜日には店舗がお休みになるからだ。しかし、観光立国フランスのことだ。完全休業ということはあるまいと期待していた。
　ベルシーからメトロに乗って、モンマルトルの丘へ向かった。「丘」というくらいだから、降車駅を間違ったら辛いかも？と思っていた。幸い、メトロ車内にちゃんと案内が出ていて、正しい駅で降りることができた。ところが、それでも相当に厳しそうな坂が目前に・・・。ほとんどの観光客は迷わずケーブルカーを選んでいる。どうするか迷っていたら、カルネのチケットでも乗れることを発見した。それならば乗らない手はない。あっという間にほぼ最上部まで上った。
　モンマルトルの丘といえばテアトル広場だ。サンレクール聖堂よりも、まずそちらが気になった。ところが、観光客もまばらだし、お店や画家たちも「さあこれから始めるか」というような状態なのだ。すっかり興ざめして、絵葉書を買ったらサンレクール聖堂のことを忘れて丘を降りてしまった。
　途中、ピカソたちが住んでいた「洗濯船（画家仲間どうしの通称で、実際に船ではない）」跡地を見てきた。また、住宅地だからなのだろうか、ジョギングする人たちに何度もすれ違った。興味がわいて不動産屋を探したら、静かに住むには適当そうな住居が相応の価格で紹介されていた。

　この日は、疲れもあってか、とくに他に寄りたいところもなく、迷っているうちにホテルへ戻ってしまった。「フランス人と同様、今日は休息日とするか」という大義名分もあったが、折角のチャンスなので、持参した無線機でアマチュア無線を運用することにした。
　ところが、前回の失敗にもかかわらず、同じ轍を踏んでしまい、あえなく陥落した。学習能力がないというか、のどもと過ぎれば熱さ忘れるというか、情けなかった。唯一の慰めは、機材が最少の準備だったこと。海外での短期運用は、ＨＦ（短波）以外にないことを肝に銘じよう。

　今日はドライブの日だ。事前に日本でレンタカーを予約した。いきなり異国でドライブというのは、精神的に余裕が少ないということが前回分かったので、今回は最終日前日に設定したのだ。パリの市内観光中にも、それとなくイメージトレーニングしていた。
　ところが、いきなりハプニングが発生した。受付でキーと駐車券を渡されて、駐車券は窓口で交換しなければならないことも理解していたのに、なぜか窓口を素通りしてそのまま車の場所に向かってしまった。当然、渡された駐車券では出口のゲートが開かない。
　焦っていると、受付で見かけたお客が駆け寄ってきて、「ここは地下１階だが、０階（日本でいう地上１階のこと）へ行かなければだめだ」と話しかけてきた。ちゃんと駐車券の交換のことを言ってくれればすぐに事情が飲み込めたはずなのに、あせりに一層拍車がかかり、「０階用に別の出口があるのだ」と勝手に勘違いをしてしまった。
　その後は大変だった。出口を探して右往左往。あの車どうしたんだろう？と思われていたかもしれない。さっきの客の姿はさっぱり見えなくなったし、きっと無事出発したに違いない。「一体全体どうなっているんだ！」と狐につままれたようだった。
　さんざん走り回って出口がひとつしかないことが分かって、ようやく我に返った。「そうだ！駐車券を交換しなければ！」と。とりあえず車を元の場所へ戻し、歩いて窓口へ行った。要するに、受付でもらった駐車券は金券で、これで駐車場の駐車券を受け取る必要があったのだ。しかし、これを完全に理解していなかったのは、英語の理解力不足が原因ではなく、どちらかと言えば受付の説明不足だ。どこで交換するのかを教えてくれていれば、窓口を素通りすることもなかったはずなのだ。（「駐車場の場所は分かりますか？」と聞かれて（分かるはずないのだが）、「知りません」と答えたら、「２０ｍ先にエレベーターがあるから、それで地下５階へ下りるとあります」と教えてくれただけだった。）
　もっとも、それを聞き返すぐらいの英語力があれば良いのだが・・・。

　３０分近くも手間取って、ようやくドライブが始まった。「こういうことも笑い話になるさ」と思えるだけの余裕は残っていたが、予想外のトラブルだった。
　本当の難関は、首都の複雑な高速道路を通って、無事に目的地まで走ることができるかなのだ。とんだハプニングの後だけに、結果オーライでも良かったのだが、そうはいかなかった。環状線に乗ったのだが、どこでどう間違ったのか、方向が逆だった。引き返すよりも、そのまま一周した方が確実だと思い、「これもドライブのうち」と発想を転換することにした。おかげで、落ち着くこともできたし、予定外にパリの景色を楽しむこともできた。

　目的地はフォンテーヌブローだ。パリの郊外、７０ｋｍほどにある。何度も枝分かれする高速道路の案内標識を穴が開くほど観察し、無事迷わず目的地に到着した。

　フォンテーヌブローは世界遺産も登録されている名勝。中世の歴代の国王たちが住んでいた宮殿だ。それなのに、なぜか観光客はまばらだった。やはりパリ郊外といえばベルサイユなのだろうか？だが、その分ゆっくりと見学できた。
　お昼には、宮殿の前に見つけた「マハラジャ」に入った。カレーが食べたいと思っていたので、渡りに船だった。

　次の目的地はプロバンだ。ここも世界遺産に登録されている。中世の街並を残す小都市で、フォンテーヌブローからは直線で４０ｋｍ程度に位置する。
　地図と勘だけを頼りに車を走らせた。道路はちょうど北海道のようで、ひたすらまっすぐで流れが速い。信号機がめったにないことも北海道と同じだった。驚いたことは、町が近づくと速度制限の標識があるのだが、７０ｋｍ/ｈに設定されていて、少し大きめの町ですら５０ｋｍ/ｈなのだ。一般道路の法定速度が６０ｋｍ/ｈである北海道とは大きく異なる点である。

　プロバンはフォンテーヌブローよりもさらに静かだった。おそらく、交通機関の利用だと、ここだけのために来なければならないからだと思う。もしもそうであるなら、レンタカーを借りてフォンテーヌブローとの合わせ技一本は良くできたわけだ。
　ただ、確かに中世のたたずまいはすばらしいのだが、昨年ストラスブールを見てしまっていただけに、「普通」に感じてしまった。もちろんストラスブールも世界遺産だが、プロバンの世界遺産を「普通」と感じてしまう贅沢さが怖かった。もう来ることはないかもしれないが、初夏に開催される「中世祭」が興味深い。

　帰路のドライブにもスリルがあった。パリまで帰ることは容易でも、レンタカー営業所の駐車場に戻れるかどうかが問題なのだ。東京を想像すれば分かるように、一方通行や高架道路がたくさんあって、単純に往路を戻るわけにはいかない。しかも、往路では予定どおりには走れなかったのだ。
　しかし、そこまで神様は意地悪ではなかった。ストラスブールのときのようにまっすぐ戻ることはできなかったが、幸い近くに大きなランドマークがあったので、そこを目指して近づくことができた。すぐそばにさえ来れば、もともと地理感は悪くないので、初めての土地でも何とかなるのだ。実際、今回も進入禁止で希望の道を進めず、未知の経路から帰ることになった。案内標識は参考にとどめ、重要なことは景色をよく観察することだ。

　結局、３０分の余裕を残して車を返却できた。やはりレンタカーを利用したドライブは欠かせないと思った。